#238 本ブログで取り組んでいること
本ブログで今取り組んでいることについて、背景知識を交えながら書いてみました。
循環型社会施策支援ツールとしてのマテリアルフロー分析
田端・井村(2006)は、循環型社会形成に向けた政策は国レベルで決定されているが、実現に向けた具体的な施策が展開されるのは地域レベルであることを指摘しています。
施策の支援ツールとして期待されている分析手法に、マテリアルフロー分析(MFA: Material Flow Analysis)があります。
産業連関表を用いたトップダウン方式
橘ら(2012)は、日本における都道府県単位を分析範囲としたマテリアルフローを作成する手法をボトムアップ方式(積み上げ方式)とトップダウン方式の2つに大別しています。
Brunner and Ernst(1986)によると、ボトムアップ方式は各種統計資料を一つ一つ積み上げてマテリアルフローを作成するため、分析には膨大なコストと時間がかかることを指摘しています。
一方、トップダウン方式には、島崎(2008)のように、全国貨物純流動調査を基本とした物流センサス等の統計資料を用いる方法と、すでに産業間の財(金額や製品)取引が記載されている産業連関表を基本とする方法があります。
このうち、橘ら(2012)は、産業連関表を基本とする方法では、その原単位を用意するのに多くの作業量が必要となる点や、流通経路が複雑な場合には、実際よりも物質量が多く算出される点を、欠点としてあげています。
しかし、後藤(2007)によると、産業連関表のデータを更新するだけで他年度でも推計が可能となります。
地域における循環型社会形成推進の担当者が、自地域のマテリアルフロー分析を実施し、循環型社会形成の度合いを定量的に把握できることが望ましいと管理人は考えています。
そのためには、ボトムアップ方式ではなく産業連関表を用いたトップダウン方式が適しています。
重量単価の推計
ただし、産業連関表に基づいたMFAを行うためには、原単位(重量単価)を適切に設定する必要があります。
橘ら(2012)は、全国産業連関表に付随する品目別国内生産額表からまず重量単価を設定するが、かならずしも全ての品目の重量単価を推計できるほどの記載があるわけではないことに言及しています。
後藤ら(2001)は、品目別国内生産額表から設定できない品目の重量単価を独自に調査しています。
このように、重量単価は専門家の試行錯誤により決定されたものであり、再現性に課題を残しています。そこで、重量単価を簡便な方法で推計する手法が求められています。
本ブログで取り組んでいること
本ブログでは、地域のマテリアルフロー分析が簡易にできるように、官庁統計ならびに各種調査報告書、文献等のみを用いてフロー量を推計に取り組んでいます。
そして、推計したフロー量と橘ら(2012)の結果を比較することで、本手法の妥当性を検討することにします。
引用文献
田畑 智博, 井村 秀文, 循環型地域社会形成支援のためのマテリアルバランス表の開発とその適用に関する研究, 環境科学会誌, 2006, 19 巻, 4 号, p. 329-343
Brunner PH, Ernst WR. Alternative methods for the analysis of municipal solid waste.
Waste Management Research 1986;4:147–60.
島崎 洋一, 物流センサスによる山梨県のマテリアルフローの時系列分析, 環境科学会誌, 2008, 21 巻, 1 号, p. 27-36
後藤 忍(2007)福島県における物質フローの推計,福島大学地域創造,19(1),48-60.
後藤尚弘,内藤ゆかり,胡 洪営,藤江幸一(2001)地域ゼロエミッションを目指した愛知県物質フローの解析,環境科学会誌,14(2),211-219.