#248 2000年神奈川県におけるマテリアルフローの推計
前回の投稿において、重量単価の最適化計算の制約条件である重量単価の変化率の上限・下限を、初期重量単価の推計方法や補正係数の値の範囲などから、品目別に設定を行いました。
今回の投稿では、上述の設定で得られた重量単価を用いて2000年の神奈川県のマテリアルフローを推計し、先行研究の値と比較することを行います。
橘ら(2012)における2000年神奈川県のマテリアルフロー
先行研究である橘ら(2012)は、マテリアルフロー(Material Flow;MF)の推計方法及び用語の定義について言及しています。
神 奈 川 県 に お け る 1980 年,1985 年,1990 年,1995 年,2000 年の産業連関表(神奈川県企画部統計課)を用いて,産業間で取引されている全物質を分析対象とした MFA を行った。MF は,産業連関表の取引金額に重量単価を乗じて,取引額を取引物
量に変換した値を用いて推計した。ここで用語の定義を説明する。
移輸入とは,県外または国外から,移入または輸入された製品と資源とする。移輸出とは,県外または国外へ,移出または輸出された製品と資源とする。県内生産(資源)とは,県内で採掘された天然資源とする。エネルギー消費とは,製品製造の過程で消費されたと考えられるエネルギー量とする。一般消費とは,それ以上の加工をされずに,最終商品として家庭や政府,企業に売られる製品とする。固定資本形成とは,耐用年数が 1 年以上で単価が 10 万円以上のいわゆる資本財とする。ただし,例外として,機械に組み込まれて新たな機械を構成するもの(機械組込),建設部門がその建設活動の中間材として購入したもの(建設迂回),土木工事の工事費の内訳として扱われる財(土木迂回),鋼船に組み込まれた機械(造船迂回)や自衛隊が購入した武器なども含まれる。第一次,二次産業への産出とは,第一次,二次産業から他の第一次,二次産業へ投入される製品とする。サービス(第三次)産業への産出とは,第一次,二次産業からサービス産業へ投入される製品とする。在庫純増とは,対象年次に生産された製品のうち,どの部門にも販売されず,かつ,自家消費もされなかった製品とする。また,購入されたのに使用されなかった製品や原料,半製品および仕掛け品の状態で余ってしまっている製品も含む。廃棄物とは,家庭からの一般廃棄物と事業所からの産業廃棄物とする。
これらの MF を物量表から推計するには次に説明するように値を代入,計算していく。これらの推計にはリサイクルデータブックに記載されている日本のマテリアルフロー推計方法を参考にした。県内生産量とは,神奈川県産業連関表における物量表の県内総生産量の値である。ただし,石油製品と石炭製品については,それぞれ原油・天然ガスと石炭を原料として製造されていることから,二重計上を防ぐためにここでは計上しなかった。移輸
入(資源)と移輸出(資源)は,物流表の各項目における移輸入(天然資源)と移輸出(天然資源)の値である。第一次,第二次産業への産出は,各項目から内生部門の第一次・二次産業への生産量とした。移輸入(製品)と移輸出(製品)は,物量表の各項目における移輸入(製品生産)と移輸出(製品生産)の値である。蓄積,在庫純増,固定資本,一般消費は,それぞれ物量表の各項目における蓄積,在庫純増,固定資本形成,家計消費・民間消費・政府支出への産出量の値である。また,サービス産業への産出は,各項目から内生部門のサービス産業への産出量の値である。廃棄物は産業廃棄物の排出量と一般廃棄物の資源化量を除いた収集量とした。
橘ら(2012)が最適化した重量単価を用いて推計した2000年の神奈川県のマテリアルフローは図248-1のようになります。
投稿#247で得られた重量単価における神奈川県のMF
前回の投稿で得られた重量単価を用いて、本投稿でも2000年の神奈川県マテリアルフローを推計しました。
表248−2は、マテリアルフローの各項目の値を橘ら(2012)における値と比較したものになります。
表248−1 本研究と橘ら(2012)における神奈川県マテリアルフローの各項目値
本研究 | 橘ら(2012) | 比率 | |
---|---|---|---|
移輸入(資源) | 13.08 | 13.40 | 0.98 |
移輸入(製品) | 5.57 | 9.86 | 0.56 |
県内生産資源 | 1.07 | 1.69 | 0.63 |
第一次、第二次産業 | 21.04 | 24.90 | 0.84 |
総投入量 | 42.13 | 49.80 | 0.85 |
総生産量 | 40.78 | 45.90 | 0.89 |
廃棄物等 | 1.39 | 3.90 | 0.36 |
移輸出(資源) | 5.54 | 4.77 | 1.16 |
移輸出(製品) | 4.88 | 6.25 | 0.78 |
一般消費 | 1.74 | 2.39 | 0.73 |
第三次産業 | 2.78 | 3.87 | 0.72 |
在庫 | 0.04 | -0.05 | -0.80 |
固定資本 | 3.70 | 2.28 | 1.62 |
移輸入(製品)では、約0.56倍、県内生産資源では約0.63倍、廃棄物等では約0.36倍、固定資本では約1.62倍と値がかけ離れてしまいました。
また、表248−1にはありませんが、本研究における廃棄物の値は、-0.02t/人というように負の値をとっています。
したがって、前回の投稿で行った最適化によって得られた重量単価は妥当性が低いと判断しました。その原因として、
- 初期重量単価の設定が適切ではなかった
- 最適化計算における変化率上限・下限の設定が適切ではなかった
の2点を想定しました。
次回の投稿では、2.の変化率上限・下限の設定をもう一度検討することにします。
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