#273 山梨県における廃棄物排出量の要因分析
これまで、島崎(2008)に基づき、山梨県におけるマテリアルフローを推計し、時系列で分析を行ってきました。ここからは、時系列データの特徴を活かし、廃棄物排出量の要因分析を行っていきます。
廃棄物排出量の要因分析の定義式
島崎(2008)では、以下のように廃棄物排出量の要因分析の定義式を示しています。
(1)式に本研究で提案する廃棄物排出量の要因分析の定義式を示す。これは、廃棄物排出量、総着量あたりの廃棄物排出量、県内総生産あたりの総着量、県内総生産をそれぞれW, R, M, Gとする。
$$
\begin{equation}
W = R・M・G = \frac{W}{F}・\frac{F}{G}・G
\end{equation}
$$
(1)式を全微分すると以下のようになる。
$$
\begin{equation}
\frac{dW}{W} = \frac{dR}{R} + \frac{dM}{M} + \frac{dG}{G}
\end{equation}
$$
(2)式を変形し、(3)式のように廃棄物排出量の変動dWを右辺3項の和から求めることができる。
$$
\begin{equation}
dW = \frac{W}{R}dR + \frac{W}{M}dM + \frac{W}{G}dG
\end{equation}
$$
その結果、特定の業種のみを対象にした場合、右辺各項の意味はそれぞれ以下のように考えられる。第1項は総着量あたりの廃棄物排出量であるため、リデュース(発生抑制)に起因する廃棄物排出量の変化、第2項は生産(サービス)あたりの総着量であるため、物質流動に起因する廃棄物排出量の変化、第3項は経済活動に起因する廃棄物排出量の変化である。ただし、県全体などを対象に異業種を組み合わせて分析する際には、産業構造の変化による変動が各項目に影響を及ぼすことに留意する必要がある。
廃棄物排出量の要因分析
図273−1に廃棄物排出量の変動に関する要因分析の結果を示します。

図273−1 廃棄物排出量の変動に関する要因分析
山梨県全体の結果では、2000年までに限定すると、
経済活動に起因するGの項目が廃棄物排出量の増加要因であり、リデュースに起因するW/Fと物質流動に起因するF/Gが減少要因になっている
ことを島崎(2008)は報告しています。さらに、2000年以降に着目すると、リデュースに起因するW/Fが廃棄物排出量の増加要因であり、経済活動に起因するGと物質流動に起因するF/Gが減少要因になっていることがわかります。
ただし、県全体を対象に異業種を組み合わせて分析しているので、島崎(2008)が指摘している以下の点に留意することが重要です。
県全体では全業種が含まれるため、産業構造の変化による要因も考慮する必要がある。
次に、第2次産業を抽出した要因分析の結果をみてみることにします。島崎(2008)は、
1995年の廃棄物排出量の増加は物質流動に起因するF/Gが寄与しており、経済活動に起因するGは減少傾向にある。一方、第3次産業を抽出した結果では、1995年の廃棄物排出量の増加は、リデュースに起因するW/Fおよび経済活動に起因するGが寄与している。したがって、1995年に山梨県全体の廃棄物排出量が増加した理由は、第2次産業の経済活動の停滞に対して第3次産業の経済活動の拡充が影響を及ぼしている。
と言及しています。
2000年に目を向けると、山梨県全体では廃棄物排出量が減少し、リデュースに起因するW/Fが減少要因となっています。同様の変動は第2次産業でも確認できます。
2000年の山梨県全体の廃棄物排出量の減少について、島崎(2008)は以下のように分析をしています。
第2次産業を細分化した鉱業、建設業、製造業のそれぞれの結果から、2000年の第2次産業における廃棄物排出量の減少に最も寄与したのは鉱業である。鉱業は他の業種に比べて、廃棄物排出量の変動が大きく、特に、リデュースに起因するW/Fの低減効果が大きいことがわかる。これは、指標分析で確認したとおり、鉱業における総着量の増加が大きく影響を及ぼしている。一方、建設業および製造業では、1990年と2000年の値を比べた場合、F/GとGの変動幅が小さく、W/Fの変動幅が最も大きい。リデュースに起因するW/Fについては、建設業が増加要因、製造業が減少要因となっているが、鉱業ほどの変動ではない。2000年に山梨県全体の廃棄物排出量の減少に大きく寄与したのは、鉱業の生産活動の変化である。
2005年に目を向けると、山梨県全体では廃棄物排出量が増加し、リデュースに起因するW/Fが増加要因となっています。同様の変動は、第2次産業、第3次産業ともに見られます。
第2次産業を細分化して見てみると、建設業および製造業において、廃棄物排出量が増加し、リデュースに起因するW/Fが増加要因といます。
したがって、2005年に山梨県全体の廃棄物排出量の増加に寄与したのは、建設業、製造業および第3次産業のリデュースの変化であるといえます。
2010年に目を向けると、山梨県全体では廃棄物排出量が減少し、経済活動に起因するGと物質流動に起因するF/Gが減少要因になっています。同様の変動は、第2次産業でも見られます。
一方、第3次産業では廃棄物排出量は増加しており、リデュースに起因するW/Fが増加要因となっています。
第2次産業を細分化して見てみると、鉱業ではリデュースに起因するW/Fが減少要因に、物質流動に起因するF/Gが増加要因になっています。建設業では、経済活動に起因するGと物質流動に起因するF/Gが減少要因になっています。製造業では、経済活動に起因するGと物質流動に起因するF/Gが減少要因になっていますが、それらの減少要因の効果を大きく上回る、リデュースに起因するW/Fの増加が廃棄物排出量の増加に大きく寄与しています。
したがって、2010年の山梨県全体の廃棄物排出量に減少に大きく寄与したのは、建設業における経済活動および物質流動の変化であるといえます。
引用文献
島崎 洋一, 物流センサスによる山梨県のマテリアルフローの時系列分析, 環境科学会誌, 2008, 21 巻, 1 号, p. 27-36