#268 2000年山梨県物質循環の指標分析の追試
これまで、島崎(2008)の追試として、2000年山梨県におけるマテリアルフローの推計に取り組んできました。
今回の投稿は、島崎(2008)における「3.1 時系列分析」の記述に則り、追試結果を照合していくことからスタートします。
時系列分析
[前回の投稿]()で推計した、2000年山梨県マテリアルフローを島崎(2008)と比較した図を再掲します。
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図268−1 島崎(2008)が推計した2000年山梨県におけるマテリアルフローの推計結果(上)と今回の追試での推計結果(下)
着量は、1990年の6,422ktに対して、1995年に6,075kt、2000年に7,692ktであり
今回の追試では、着量は7,692ktという値が算出されましたので、推計方法が適切であるといえます。
発量は、1990年の10,567ktに対し、1995年に6,906kt、2000年に3,474ktであり
今回の追試では、発量は3,474ktという値が算出されましたので、推計方法は適切であるといえます。
内部流動量は、1990年の16,763ktに対し、1995年に18,803kt、2000年に17,865ktであり
今回の追試では、17,865ktという値が算出されましたので、推計方法は適切であるといえます。
着量と内部流動量の合計である総着量(着産業業種別)は1990年の23,185ktに対し、1995年が24,877kt、2000年が25,556ktであり
今回の追試では、総着量(着産業業種別)は25,557ktという値が算出されましたので、推計方法は適切であるといえます。
発量と内部流動量の合計である総発量(発産業業種別)は1990年の27,330ktに対し、1995年が25,709kt、2000年が21,338ktであり
今回の追試では、総発量(発産業業種別)は21,338ktという値が算出されましたので、推計方法は適切であるといえます。
指標分析
ここまで、山梨県における物質収支の変化について把握を試みてきました。島崎(2008)では、その次に、物質流動に伴う経済活動、エネルギー消費、環境負荷の関係を明らかにしようとしています。
経済活動については、総生産額について注目します。
山梨県の総生産額は1990年の2.7兆円から、2000年に3.4兆円まで増加
総生産額は、平成12年山梨県産業連関表統合大分類より算出します。具体的には、下記の式から求めます。
$$
総生産額 = 粗付加価値部門計 - 家計外消費支出
$$
産業別の粗付加価値部門計、家計外消費支出、総生産額の内訳及び合計は表268−1のようになり、平成12年山梨県総生産額は3.4兆円という値が算出できました。
表268−1 平成12年山梨県の産業別総生産額(統合大分類)
続いて、2000年山梨県における最終エネルギー消費量について見ていくことにします。
最終エネルギー消費量の推移は1990年の34PJから、1995年に44PJに増加したが、2000年に38PJまで減少した。
島崎(2008)では、山梨県の最終エネルギー消費量は、都道府県別エネルギー消費統計|資源エネルギー庁より引用しています。ところが、2025年2月17日に該当のサイトを確認したところ、2000年の値は掲載されていませんでした。なので、追試は見送ることにします。
物質循環の指標
表268−2に島崎(2008)が提示した物質循環の指標内容を引用します。
表268−2 物質循環の指標内容(島崎(2008)より引用)
W(廃棄物排出量)は、一般廃棄物と産業廃棄物の合計値を使用しています。これら6つの指標は小さいほどよいといえます。表268−3に島崎(2008)における物質循環の指標結果を引用します。
表268−3 島崎(2008)における物質循環の指標結果(島崎(2008)より引用)
今回の追試で得られた総着量F、総発量Oを元に、以下の4つの指標を算出し、島崎(2008)の値を対比します。
- W/F[g/g]
- F/G[g/円]
- E/O[kJ/g]
- C/O[g/g]
表268−4に、上記4つの指標について島崎(2008)と対比した結果を示します。
表268−4 物質循環の指標結果の比較
まず、2000年山梨県全体のW/F(廃棄物排出量 / 総着量)およびF/G(総着量 / 県内総生産)の値について、島崎(2008)と同じ値が得られました。
次に、2000年山梨県全体のE/O(最終エネルギー消費量 / 総発量)およびC/O(二酸化炭素排出量 / 総発量)については、算出結果は島崎(2008)と異なりました。
ここで、島崎(2008)の表3 山梨県におけるマテリアルフローの推計結果より引用した最終エネルギー消費量の値103630[TJ]および総発量2138287[t]より、定義式に基づいてE/Oを算出してみました。
$$
E/O = (103630 × 10^9) / (2138287 × 10^6) ≒ 4.857
$$
というように、追試で得られた値を一致しました。ですので、島崎(2008)の値4.256はどのようにして得られたのかが気になっています。
同様に、C/Oについて、島崎(2008)の表3 山梨県におけるマテリアルフローの推計結果より引用したCO2排出量の値1117000[tC]およびtCをtCO2に換算してから、C/Oを算出するようにすると、以下のようになります。
$$
C/O = 111700 × 10^6 × 44(二酸化炭素の分子量) / 12(炭素の原子量) ≒ 0.192
$$
というように、追試で得られた結果と一致しました。ですので、島崎(2008)の値0.331がどのようにして得られたのかが気になっています。
2000年山梨県第2次産業に話を進めます。W/FおよびF/Gについて、島崎(2008)と追試で得られた値は異なりました。
値が異なる要因として、追試にて鉱業、建設業の総着量は、島崎(2008)と大差ない値が得られたのに対して、製造業の総着量の値が島崎(2008)と大きく異なる結果が得られたことが挙げられます(詳しくはこちらの投稿を参照してください)。
また、E/OおよびC/Oについては、島崎(2008)と比較することは見送ることにしました。その理由は以下の2点です。
- 2000年における山梨県第2次産業の最終エネルギー消費量の値が、都道府県別エネルギー消費統計|資源エネルギー庁に掲載されていない。
- 前述したように、島崎(2008)におけるE/OおよびC/Oの算出方法に気がかりな点があること。