#250 重量単価の変化率を設定する(その3)
前回の投稿において、最適化計算における重量単価の設定について、2回目の検討を行いました。その際、本研究における初期重量単価の設定が不適切であると考えられる産業について言及しました。
今回の投稿では、上記のような産業の初期重量単価および最適化計算における変化率の設定について検討を加えていきます。
初期重量単価の設定が不適切であると考えられる産業
下記の2点のどちらかに該当する産業が、本研究の当初において設定した初期重量単価が不適切であると考えられます。
- 10^-0.7倍 > 橘ら(2012)における最適化後の重量単価 / 本研究における初期重量単価
- 10^0.7倍 < 橘ら(2012)における最適化後の重量単価 / 本研究における初期重量単価
これらの産業については、橘ら(2012)が推計した初期重量単価を本研究における初期重量単価として直接利用することにします。次に、ratio(橘ら(2012)における最適化後の重量単価を橘ら(2012)における初期重量単価で除した値)によって、変化率下限・上限を設定しました。
設定した初期重量単価および変化率上限(lowelimit)・上限(upperlimit)は表250−1のようになります。
表250−1 初期重量単価および変化率下限・上限を橘ら(2012)と等しいと仮定した産業
なお、表250−1における列名の説明は、下記のようになります。また、表250−1に記載されていない産業における変化率下限・上限の設定は投稿#249と同じになります。
重量単価の最適化を実行
上述の初期重量単価および変化率下限・上限設定のもと、重量単価の最適化計算を実行しました。
図250−1は、最適化前後における生産量・廃棄物量の統計値と計算値の散布図になります。
最適化計算によって、対角線上に位置する産業の数が減りました。また、相対差の標準偏差を表す、対角線の上下に描かれた2本の直線の幅が広がりました。
生産量・廃棄物量の統計値と計算値のMAPE(Mean of Absolute Percentage Error:相対差の絶対値の平均)を計算すると、最適化前の値が5.11であるのに対して、最適後の値は14.09と大きくなりました。
統計値と計算値が離れてしまった原因については、投稿#249にて検討しています。
MFAに関連する4つの指標
次に、MFA(Material Flow Analysis : マテリアルフロー分析)に関連する4つの値(資源生産性、循環利用率、国内天然資源量、移輸入天然資源量)を計算し、環境統計集に記載されているそれらの値との間で比較しました。
表250-2 最適化前後の資源生産性、循環利用率、国内天然資源量、移輸入天然資源量
最適化前 | 最適化後 | 環境統計集 | |
---|---|---|---|
資源生産性(万円/t) | 30.49(8.51%) | 27.52(-2.06%) | 28.10 |
循環利用率(%) | 10.74(7.4%) | 9.8(-2.0%) | 10.00 |
国内天然資源量(億トン) | 12.43(10.51%) | 11.76(4.57%) | 11.25 |
移輸入天然資源量(億トン) | 4.43(-41.15%) | 5.35(-28.8%) | 7.52 |
最適化によって、4つの指標ともは改善が見られました。
本投稿で得られた重量単価を用いて、2000年神奈川県のMFAを行いました。橘ら(2012)が最適化した重量単価を用いて推計した2000年の神奈川県のマテリアルフローは図250-2のようになります。
本研究の最適化前後および橘ら(2012)における神奈川県のマテリアルフローの各項目の値を比較すると、表250−3のようになります。
表250−3 本研究の最適化前後およびと橘ら(2012)における神奈川県マテリアルフローの各項目値
最適化前 | 最適化後 | 橘ら(2012) | |
---|---|---|---|
移輸入(資源) | 12.63(-5.75%) | 13.73(2.46%) | 13.40 |
移輸入(製品) | 5.66(-42.60%) | 9.84(-0.20%) | 9.86 |
県内生産資源 | 0.98(-42.01%) | 1.05(-37.87%) | 1.69 |
第一次、第二次産業 | 21.27(-14.58%) | 25.60(2.81%) | 24.90 |
総投入量 | 40.53(-18.61%) | 50.23(0.86%) | 49.80 |
総生産量 | 50.70(10.46%) | 44.74(-2.53%) | 45.90 |
廃棄物等 | −8.17(-309.49%) | 5.48(40.51%) | 3.90 |
移輸出(資源) | 6.48(35.85%) | 4.51(-5.45%) | 4.77 |
移輸出(製品) | 6.18(-1.12%) | 6.07(-2.88%) | 6.25 |
一般消費 | 1.65(-30.96%) | 2.11(-11.72%) | 2.39 |
第三次産業 | 4.00(3.36%) | 3.56(-8.01%) | 3.87 |
在庫 | 0.00(-100.00%) | -0.10(100.00%) | -0.05 |
固定資本 | 10.15(345.18%) | 1.95(-14.47%) | 2.28 |
移輸出(製品)および第三次産業において、最適化後の値が最適前の値に比べて、橘ら(2012)の値から離れてしまいました。一方、それら以外の項目においては、最適化後の値の方が、橘ら(2012)の値に近くなりました。
最適化後の値と橘ら(2012)の値を比較すると、県内生産資源および廃棄物等では約1.4倍、在庫では約2倍と値がかけ離れてしまった原因の検討を要する項目もありますが、概ね同等の値を得られたと判断できます。
ふう。
ようやく、初期重量単価および変化率下限・上限の設定について、妥当な値を得ることができました。