#215 在野研究者として地域マテリアルフロー分析に取り組む意義

今回の投稿は、産業連関表を用いた地域マテリアルフロー分析に在野研究者として取り組む意義についてです。

本サイトのURLであるregionlamfa.jpは、私自身の在野研究のテーマであるRegional Material Flow Analysis(地域マテリアルフロー分析)を縮めたものとなっています。

マテリアルフロー分析(Material Flow Analysis)とは

橘ら(2012)は、マテリアルフロー分析(MFA; Material Flow Analysis)を、以下のように定義しています。

MFA とは,ある地域について統計資料やアンケート調査を利用して,生産,取引,廃棄されるまでの流れを定量的に分析する手法である。 MFA の分析対象品目は,製品中に含まれる元素や化学物質,パソコンや自動車等の製品自体のほか非常に広く,また地理的な対象範囲においても国や都道府県等の経済圏まで広範囲にわたる。

橘 隆一, 近藤 浩正, 荒川 正幹, 後藤 尚弘, 船津 公人, 藤江 幸一, 産業連関表を用いた重量単価の最適化モデルの開発と神奈川県のマテリアルフロー分析への応用, 環境科学会誌, 2012, 25 巻, 2 号, p. 134-150

また、橘ら(2012)は、MFAの研究事例について、以下のように述べています。

これまでの研究事例では,国単位の分析は日本, EU,アメリカなどで実施されており事例が多い。同じ国内であっても地域によって産業や社会の特徴は大きく異なることから,我が国の循環型社会推進基本計画では小さな範囲での循環圏の構築も掲げている。しかしながら,実際には, 中小規模の地域単位による分析事例は少ない。

そして、日本における中小規模の地域単位による分析事例について、

  • ボトムアップ方式とトップダウン方式の2つの方式があること
  • それぞれの方式の利点と欠点

を整理しています。

日本において都道府県単位を分析範囲としたマテリアルフロー( MF; Material Flow)を作成する場合には,ボトムアップ方式(積み上げ方式)とトップダウン方式の 2つの手法が考えられる。 ボトムアップ方式では,生産量が記載されている個々の物質や製品の統計資料を一つ一つ積み上げ て MFを作成するため分析には膨大なコストと時間がかかる。
 一方,トップダウン方式には,全国貨物純流動調 査を基本とした物流センサス等の統計資料を用い る方法 と,すでに産業間の財(金額や製品)取 引が記されている産業連関表を基本とする方法がある。前者では,都道府県単位でのデータは用意されているものの,物質移動が重複計上されてしまうことや外国貿易による輸出入は考慮されないため 別途統計資料が必要となることなどの欠点がある。後者では,その原単位を用意するのに多くの作業量 が必要となる点や,金銭を物質量に換算するため, 流通経路が複雑な場合には,実際よりも物質量が多く算出される点が,欠点として挙げられる。しかし, 産業連関表のデータを更新するだけで他年度でも推計が可能である。簡易に MFA を実施しようとすれば,MFA に必要なデータ数を考慮するとボトムアップ方式ではなく産業連関表を使ったトップダウン方式が望ましい。

橘ら(2012)が言及しているように、産業連関表のデータを更新することで、他年度でもMFの推計が可能となります。Tachibana et al(2008)は、産業連関表のデータを更新することにより、1980年から2000年までの愛知県のMFを推計しています。

(Junzo Tachibana, Keiko Hirota, Naohiro Goto, Koichi Fujie, A method for regional-scale material flow and decoupling analysis: A demonstration case study of Aichi prefecture, Japan, Resources, Conservation and Recycling, Volume 52, Issue 12, October 2008, Pages 1382-1390)

在野の身だからこそ

一方で、私が知る限りでは、2001年以降での都道府県単位を分析としたマテリアルフロー分析の研究事例が多くはありません。福島大学の後藤氏が福島県のMFの推計を毎年行い、成果を大学紀要に発表されているようですが、方式はボトムアップ方式となっています。

後藤 忍, 福島県における物質フローの推計, 福島大学地域創造, 2007, 1巻, p.5970~5982

橘ら(2012)が、産業連関表を使った方式における原単位(重量単価)の最適化に関する手法を開発したことにより、産業連関表を用いた地域マテリアルフロー分析がより簡易になりました。

それにもかかわらず、産業連関表を用いた2001年以降の分析の事例が蓄積されていません。個人的に、実にもったいないなと感じています。

確かに、橘ら(2012)の手法をそのまま踏襲するだけであれば、研究のオリジナリティや新規性に乏しいでしょう。それ故に、大学や研究機関に所属する(いわば「在朝」の)研究者は、橘ら(2012)の手法にはもはや魅力を感じていないかもしれません。

けれども、学生時代に地域マテリアルフロー分析に魅せられた自分としては、橘ら(2012)の手法がこのままロストテクノロジーとなってしまうのを、このまま見過ごすわけにはいかないのです。

オリジナリティや新規性を追求せざるを得ないのが在朝の研究者の宿命であれば、オリジナリティや新規性に必ずしも囚われる必要がないのが、在野研究者の利点です。

その利点を活かしながら、自分のペースで、自分が納得がいくまで、地域マテリアルフロー分析を行っていければと考えています。

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